家事従事者の後遺障害
1 後遺障害とは
交通事故で怪我をしてしまい、しっかりと治療を受けたにもかかわらず症状が残ってしまって今後も治る見込みがないと判断される場合(この状態を「症状固定」といいます。)には、自賠責保険に対して後遺障害認定の申請手続きを行うか、裁判所で損害賠償請求訴訟を提起し、後遺障害として認定されるかを判断してもらうことになります。
2 後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益
後遺障害が認定された場合、「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」という項目の損害賠償を請求することができるのが通常です。
後遺障害慰謝料とは、交通事故による怪我で後遺障害を負ってしまったことに対する精神的苦痛を補填するためのものです。
後遺障害慰謝料の額は、後遺障害の等級が高くなればそれだけ金額も高くなります。
そして、後遺障害逸失利益とは、後遺障害により労働能力が一部または全部失われたことで、本来であれば稼働して得られたはずの利益が得られなくなったことに対する補填のためのものです。
後遺障害の種類にもよるのですが、等級が高ければ高いほど、労働能力の喪失率が高くなるのが通常です。
3 家事従事者の後遺障害逸失利益
家族のために炊事や洗濯、掃除といった家事を行っている方は、その対価を家族から金銭として受け取っているわけではないため、事故によるけがで後遺障害が生じ、家事に支障が出たとしても、金銭的な収入の減少が発生するわけではありません。
しかし、家事従事者の家事労働はボランティアではなく、家族のために行っているものであり、他者のための労働には金銭的な価値があると評価すべきであり、これが後遺障害により出来なくなってしまった場合は、後遺障害逸失利益として請求できるものとされています。
4 家事従事者の後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益の計算方法は、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数です。
⑴ 基礎収入
基礎収入については、厚生労働省が発表している賃金センサスという表の、「女性労働者の全年齢平均給与額または年齢別平均給与額」をもとに金額を算出します(男性の家事従事者であっても、同じものをもとに計算します)。
この金額は毎年変わりますが、例えば令和元年度の女性、全年齢、学歴計の金額は、381万9200円となります。
⑵ 労働能力喪失率
労働能力喪失率は、本来であればその人の怪我の程度や仕事内容、具体的な支障をもとに計算されるべきですが、実際は認定された等級ごとに画一的に決まっており、例えば14級の場合は5パーセント(後遺障害が生じる前を100%として、5パーセントの労働能力が失われたということです)となっています。
⑶ 労働能力喪失期間とライプニッツ係数
労働能力喪失期間は、原則として症状固定時の年齢から就労可能年齢である67歳までですが、むちうち等による神経症状の場合はじきに痛みに慣れていくことが多いとして5年や10年に制限する裁判例が多く見られます。
また、症状固定時の年齢が67歳を超えていた場合は、厚生労働省が発表する簡易生命表の平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とします。
これは、症状固定時の年齢から67歳までの年齢が、簡易生命表の平均余命の2分の1より短くなる方についても同様です。
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