死亡事故が生じた際の死亡逸失利益
1 死亡逸失利益とは
死亡逸失利益とは、交通事故で亡くなった被害者が今後も生きていたならば得られたであろう収入(基礎収入)から、想定される今後の生活費を控除し、さらに中間利息控除として就労可能年数に対応するライプニッツ係数を掛けた金額をいいます。
2 基礎収入について
⑴ 有職者
事故前に仕事をしていた人の場合は、原則として事故前の収入を基礎収入とします。
もっとも、30歳以下の若年労働者の場合には、今後昇給していくことが予想されるため、厚生労働省による「賃金構造基本統計調査」(賃金センサス)をもとに算出することもあります。
参考リンク:厚生労働省・賃金構造基本統計調査
⑵ 家事従事者
家族のために家事労働を行う家事従事者の場合、賃金センサスの女性労働者全年齢平均の賃金額を基礎収入として算出することが多いです。
「女性労働者全年齢平均」の賃金額を使用しますが、家事従事者の方が男性であってもそれは変わりません。
⑶ 無職者
幼児、生徒、学生の場合は、賃金センサスの男女別全年齢平均の賃金額をもとに算出することが多いです。
失業中の場合は、労働能力及び労働意欲があり、就労の可能性が高い場合に限って逸失利益が認められ、基礎収入は失業前の収入や賃金センサスの男女別全年齢平均の賃金額をもとに算出します。
高齢者の場合は、失業者と同じく、就労の蓋然性があれば逸失利益が認められますが、基礎収入は賃金センサスの男女別年齢別平均の賃金額をもとに算出します。
さらに、高齢者の場合は年金を受け取っていることがありますが、年金の種類によっては基礎収入に含めないもの(逸失利益として認められないもの)もあります。
例えば、遺族厚生年金について、受給権者(亡くなった被害者)自身の生計の維持を目的とする給付であるとして、逸失利益性を否定した判例(最判平成12年11月14日)があります。
3 生活費控除
⑴ 生活費控除率
生活費の控除は、被害者が生活費としていくら使う予定だったか個別具体的に立証しなければならないわけではなく、原則として扶養人数に応じて画一的に判断されます。
例えば、一家の支柱(被害者の世帯が主に被害者の収入によって生計が維持されている)の場合、被扶養者1人だと控除率40パーセント、被扶養者2人以上だと30パーセントと判断されることが多いです。
⑵ 税金部分の控除
高額所得者だと、所得のかなりの割合を納税する必要がある場合もありますが、納税額の決定は立法政策上の問題で加害者とは無関係であるとして、税金については控除されないとするのが裁判所の見解です。
4 就労可能年数
就労可能年数は、原則として67歳までです。
死亡時に67歳を超える方は、厚生労働省の発表する簡易生命表記載の平均余命の2分の1が就労可能年数となります。
死亡時の年齢から67歳までの年数が上記平均余命の2分の1より短くなる方については、平均余命の2分の1が就労可能年数となります。