子どもがいない夫婦の相続で注意すること
1 子どもがいない夫婦の相続はトラブルに発展しやすい
子どもがいない夫婦において、片方の配偶者が亡くなった場合、子がいる場合に比べて遺産分割におけるトラブルが発生しやすい傾向にあります。
その原因は、子がいない場合の法定相続人が配偶者と直系尊属または兄弟姉妹であること、亡くなった配偶者の自宅不動産にもう片方の配偶者が住み続ける可能性が高いことにあります。
以下、トラブルの具体的な内容と、対応方法について説明します。
2 子どもがいない夫婦の相続において発生するトラブルの具体例
⑴ 法定相続割合について
亡くなった配偶者の直系尊属(両親や祖父母)がご存命の場合の法定相続割合は、生存配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1となります。
亡くなった配偶者の直系尊属がお亡くなりになられていて、兄弟姉妹がいる場合の法定相続割合は、生存配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。
したがって、子がいない場合には、原則として亡くなった配偶者の直系尊属または兄弟姉妹(兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合には甥や姪)と遺産分割協議をする必要があります。
⑵ 亡くなった配偶者の親族との関係性が悪い場合
亡くなった配偶者の親族との関係性が悪かった場合には、遺産分割協議が難航する可能性が高くなります。
実務上は、何らかの理由で法定相続割合以上の財産を取得することを主張したり、配偶者には一切財産を渡すべきではないという思想のもとで遺産分割協議に応じないということもあります。
話し合いでの合意が難しい場合は、遺産分割調停や審判まで行うことになります。
参考リンク:裁判所・遺産分割調停
また、亡くなった配偶者が家族と疎遠であった場合には、そもそも法定相続人の連絡先や住所が分からず、連絡を取ることが困難であるケースもあります。
このような場合には、弁護士に依頼して相続人の連絡先を調査したうえで遺産分割協議の話し合いをするなどの対応が必要となります。
それでも連絡が取れない場合には、遺産分割審判を行わなければなりません。
⑶ 亡くなった配偶者の自宅不動産に住み続ける場合
亡くなった配偶者が自宅不動産を所有していた場合には、生存配偶者がそのまま住み続けるということが少なくありません。
もし自宅不動産以外の相続財産があまりない場合には、他の相続人に対して、法定相続分に相当する金銭を支払うことになります(代償分割)。
他の相続人に支払う金銭が用意できない場合、自宅不動産を売却せざるを得ないという事態に陥る可能性もあります。
3 子どもがいない場合の生前対策
⑴ 遺言の作成
まず、直系尊属がすでに死亡しており、推定相続人が配偶者と兄弟姉妹(または甥、姪)である場合には、すべての財産を配偶者に相続させるという内容の遺言を作成することが有効な生前対策となります。
兄弟姉妹には遺留分がないため、このような遺言を作成しておくことで、すべての財産を生存配偶者に取得させることができ、かつ遺産分割協議が発生する余地をなくすことができます。
直系尊属が生存している場合であっても、直系尊属の総体的遺留分は6分の1ですので、遺言を作成しておくことで生存配偶者の負担を減らすことができます。
⑵ 他の相続人に支払う資金の準備
遺言を作成せず代償分割をすることが想定される場合や、直系尊属へ遺留分侵害額相当額の支払いが必要になると考えられる場合には、配偶者を受取人とする生命保険の契約をしておくことも大切です。
死亡保険金は相続財産ではないため、遺産分割の対象にもなりません。
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